メーデーの腕くめば雨にあたたかし    栗林一石路(52歳 1894年生まれ)

闘争本部からはつらつと夏の少女たち 栗林一石路

ながい戦争がすんだすだれをかけた   栗林一石路


 栗林は昭和16年に治安維持法で検挙、二年間投獄されている。敗戦は長野県の蓼科で迎えている。ジャーナリストでもあり戦後すぐに「民報」という新聞を出す。昭和36年67歳で永眠している。掲句の三句の中では三番目の句に人間としての実感があふれている。その前の二つは栗林の構えとしての句である。これもまた信じたものであり一人の人間を支えた思想から来る句として認めなければならないが、どこかポスター的な偽の明るさがある。この後出てくる西東三鬼の乳房の句と比べてみるとその嘘っぽさが歴然としている。

 おそるべき君等の乳房夏来る  西東 三鬼

 闘争本部からはつらつと夏の少女たち 栗林一石路

 嘘っぽいという感覚に対して反発される方もいるかもしれないが、でも栗林の三句目

 ながい戦争がすんだすだれをかけた   栗林一石路

この句こそ俳句形式の真の生かされ方ではなかろうか。栗林にしても重々そのことは理解していただろう。栗林のあとに生きているものとして、時代の中に生きて俳句を詠むということを考えるときこれらの句は多くの示唆を与えてくれる。 

 昭和30年に<シャツ雑草にぶっかけておく>という句を残しているが、ここにきて思想と俳句という詩形が栗林の中で融合したのかもしれない。


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