昭和俳句作品年表を読む その6

畔の榛ひととほるときそびえたつ 川島彷徨子(35歳 1910年生まれ)


 川島は神奈川県の厚木生まれである。俳句は臼田亜浪に直接師事した。昭和3年に『石楠』に
投句して昭和5年には巻頭を得た。早稲田大学に進んだが肺病で休学、昭和13年に応召し14年
には痔の手術で除隊。15年に結婚。川口市に新居を定めて戦後もここにいた。
 篠原梵や大野林火と年代的には近い。
俳人というよりも詩人に近いなどと掲句を納めた句集『榛の木』で評価を得た。

 芽吹く樹々とほきはただに枯れる樹々  昭和14年
 落葉松林人をひとりにかへらしむ    昭和15年


 この句を見て私は思い出す絵がある。佐藤哲三の「みぞれ」という絵である。描かれているのは
新潟の蒲原郡の曇り空と畦とトリネコの木であるが、まさにこの句のような光景である。佐藤の生
れは川島と同じ1910年である。
  絵は1953年に描かれたものだが、不思議な暗合を思うのだ。佐藤も体を壊して戦争に入って
いない。川島もそうだ。このような境遇に陥ってしまって戦争に行けなかった、あるいは行かなか
った人間の戦後の気持ちは複雑極まりないものであったろ。その気持ちが表現に向かわせるの
だろうか。
 トリネコの木も榛の木も田の畦に植えられて、稲を干す竿を掛けるのに使われる。高さは15m
ほどにもなるというので掲出句の「そびえたつ」という措辞になる。敗戦間もない農村地帯はある
意味で変わらない風景であったことを示す句である。だが「そびえたつ」の措辞に、多くの兵隊を
国にとられて実際は若い人がいない村の寂しさをかすかに込めたのかもしれない。


佐藤哲三 『みぞれ』

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