昭和俳句作品年表を読む その9

 沖かけて波一つなき二日かな  久保田万太郎(57歳 1889年生まれ)


 久保田万太郎をひとでなしといったのは、志摩芳次郎である。「俳句をダメにした俳人たち」で書いている。ようは芸術家、小説家であっても女房を自殺に追いやるやつは人間として認めないという強烈な批判である。しかし俳句はかなり読ませて名句が多い。鬼でなければ人の心はつかめないのだろうか。この句も亦、戦後半年もたたない人の心境だろうか。火宅の人の心境だろうか。それともすべて虚構の劇的なものとして客観的に自分を見て描いているのだろうか。下記の二句も含めて万太郎の句には死の気配というか、あちら側の世界の雰囲気が漂っている。美しいもの以外価値名無しと思い切れた人間のみがいたる境地かもしれない。そのような人間にとって戦争だって過ぎゆく物の一つでしかない。虚子がそうであったように。どちらも挨拶句が上手いのはこの辺に鍵があるのだろう。


短夜のあけゆく水の匂かな  久保田万太郎

ゆく年やむざと剥ぎたる烏賊の皮 久保田万太郎


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